Shoji Tanaka Laboratory

<音楽・演劇>脳科学研究室

上智大学 理工学部 情報理工学科

News

オペラの視聴覚鑑賞時のミラーニューロン活動(論文)

脳神経科学で世紀の大発見といわれ現在も盛んに研究されているミラーニューロン。このニューロン(神経細胞)は自身の運動時に活動する運動系のニューロンでありながら,他者のアクションを見ても活動します。視覚系のニューロンではない点が重要なポイントです。これが視覚系のニューロンであれば,見て反応する(視覚情報処理をする)ということにすぎず,新規性はありません。ではミラーニューロンは何をするニューロンでしょうか。運動系でありながら他者のアクションに反応するということは,他者に自身を重ねているということだと考えられます。何のために?

私はこの論文で,オペラ鑑賞時にミラーニューロンが活動するかどうか,またその条件は何かを調べた脳波実験の結果を論じました。声楽家の方の頭に脳波計をつけさせていただいて,アリアを歌っているシーンのビデオを観ている時の脳波を計測しました。その後実際に同じアリアを歌っていただいていますが,この論文ではその結果には含まれていません。実験に参加してくださった声楽家の皆さん,ありがとうございました。

脳波解析の結果,ビデオ鑑賞時のミラーニューロン活動が検出できました。頭の中央部のアルファ波が減衰することがミラーニューロン活動のサインです。第二の興味深い結果は,同じビデオの映像をオフにして聴覚のみで鑑賞した場合にはミラーニューロン活動が見られなかったことです。ピアノ演奏の場合は聴覚のみでミラーニューロン活動が起きることが確認されているので,声楽と器楽の違いを示しています。声楽のミラーニューロン研究は世界的にも例がないので,この論文で最初の一歩を踏み出せたことは幸いでした。なお,この論文はパフォーマンス・サイエンスの「音楽と身体の動きをつなぐ:パフォーマンスの振り付けアプローチ」という特集号に掲載されていて,誰でも読むことができます。

Tanaka, S. (2021). Mirror neuron activity during audiovisual appreciation of opera performance. Front. Psychol. 11, 3877. doi:10.3389/fpsyg.2020.563031. [web]